聖人 カン・ケイ師の教え#1~男と女
聖人カン・ケイ師は、示唆に富んだ話を終えると、厳かに私たちに語りかけた。
「悩めるものたちよ、汝らは幸いである」
畏れ多くも師は、私たちの悩みを聞いて下さるというのだ。
風采の上がらない男が立ち上がって、師に問うた。
「師
よ、私の女房は、私の稼ぎが悪いのでパートに出ていましたが、今ではパート先の役員になり、私よりもうんと稼ぐようになりました。最近は、稼ぎの悪い私を
馬鹿にするようになり、家事を一切しなくなりました。文句を言うと、あなたがいなくなっても何も困らないなどと悪態をつきます。私はどうすればいいので
しょうか」
師は瞑っていた目をピクリと動かし、憂いに満ちた声でおっしゃった。
「男は種を蒔くものである。女は育むものである。女は留まるものだが、男は留まるものではない」
師の言葉があまりにも深長なので、男が戸惑った顔をしていると、師の側近、ヒゲ・デイブが男を諭すように言った。
「去れ!と師はおっしゃっているのだ。妻に必要とされなくなったあなたは幸いである。そこから立ち去り、新たな種を蒔きなさい」
「しかし、私には仕事があります。それに・・・妻と子供を愛しているのです」
男が訴えると、再び師は口を開いた。
「愛情は女と子供のもので、男のものではない。女は生まれながらに祝福されているが、男は生まれながらに荷物を背負っている」
師は少し苛立ったようにお言葉を述べられ、一呼吸置いて、思い直したように続けられた。
「無意識と運命には逆らえないものだ。あなたは支配されているのだ」
師のお言葉は、師の側近ヒゲ・デイブにも理解ができなかった。
しかし、ヒゲ・デイブは、深くうなづいて見せて、「あなたは幻を見ているに過ぎない。それに気づきなさい」と適当な解説を加えた。
一同はあまりにも深い二人の言葉に声にならない感嘆の声をあげ、ひれ伏した。
師はヒゲ・デイブを見て、満足そうにうなづき、悩める男に祝福を与えられた。
それから、奥方に持たされた弁当を取り出して、召し上がった。
師は野菜がお嫌いであったが、最近太り始めた師の健康を慮った奥方は、弁当に牛蒡サラダを入れたようだった。
師は顔をしかめて弁当を召し上がると、皆を見回して、何か言いたそうな顔をされた。
皆が緊張して、師のお言葉を息を呑んで待っていると、師は長い放屁をされ、立ち上がって、次の間に退出された。
牛蒡が師の胃腸に作用したようである。そして、満腹になった師は眠くなられたようである。
| 固定リンク
| コメント (0)
| トラックバック (2)
最近のコメント